#20 「楽しくなければテレビじゃない」からの脱却宣言で感じたこと

6月下旬の株主総会シーズンを迎えて、世の中、騒がしくなっています。

足元話題になっているフジ・メディア・ホールディングスでは、不祥事件への対応に加えて、アクティビストからのプレッシャーなど、今後どういう帰結になるか見通しが立ちにくい状況で、世の中からの注目もしばらく続くものと思われます。

フジ・メディア・ホールディングスは、5月16日に「改革アクションプラン」を公表しています。その主要項目は、①人的資本経営の推進、②“攻め”の事業改革、③中長期的な価値創造に向けた資本の最適化、④ガバナンス重視経営への転換で、自身の価値を評価し直すことで、企業価値向上に向けたロードマップを作ろうというオーソドックスなアプローチです。

同社が有する様々な経営資源の中で、彼らのソフトパワーを最大限活かしていければ、同社の価値向上に向けた取り組みはかなりの効果を発揮するものと思われます。

このアクションプランの「人的資本経営の推進」の中では、「企業風土の一新に向け、組織をダイナミックに再編」との項目をたて、「これまでの組織風土形成に直結していた編成局やバラエティ制作局等の組織を解体・再編」とあります。

これは、4月30日にフジテレビジョンとして「フジテレビの再生・改革に向けた8つの具体的強化策及び進捗状況」を公表しているものに基づいています。

その中の8つの具体策の8番目の項目として、「公共性と責任を再認識し、企業理念を見直します」とし、「「楽しくなければテレビじゃない」から脱却し、放送法の原点に立ち返り、公共性をもって社会に貢献できる企業となり、社会の公器としての役割を果たします。・・・内外のステークホルダーとの対話 を通じ企業理念を見直します。・・・」としています。

フジテレビの社長は、記者取材に

「社内の一部に、『楽しくなければテレビじゃない』を過度に重視した風土が根付いていたことを重く受け止めています。」「80年代のフジテレビ躍進を支えた一大スローガンで、いいところがたくさん詰まったスローガン。全部を捨てるわけではないが、『おもしろければ他のものを犠牲にしてもいい』という誤解や曲解があり、批判につながっている。おもしろいことはとても大事だが、何かの犠牲の上に成り立つものではない。」(4月30日、Yahoo!ニュース)

と話しています。

この「企業理念」「企業風土」「組織風土」というワーディングは、こうした不祥事案が生じた企業では、必ずと言ってもいいほど出てくるものですが、自身の根本的な課題として、「自分の会社の社会的な意義は何か」「会社をスタートした原点は何か」などを自身に問い合わせることが大事で、そこを考えて再スタートを切っていくことを行うことが多いということでしょう。

「楽しくなければテレビじゃない」からの脱却宣言については、ネットでは賛否両論で大変話題を呼んでいたようですが、企業そのものの社会的なあり方を考える上で、とても大事な議論と感じました。

私自身としては、「楽しくなければテレビじゃない」からの脱却宣言が、フジテレビジョンの良き文化が消えていくことにつながってしまうのではないか、フジテレビジョンのダイナミズムやイノベーションの精神を抑えてしまうのでは、ということが心配されるところです。

しかしながら、同時に、安易に「楽しくなければテレビじゃない」というスローガンが、水戸黄門の印籠のような使われ方を社内的にはしていたのではということが見えてくることもあり、「楽しくなければテレビじゃない」をいいように使っていた人が多くいたことも事実でしょうから、「企業理念」「企業風土」「組織風土」がいかに重要かが浮かび上がるところです。

この「企業理念」「組織風土」「企業風土」に今回の根っこがあるとの認識で、様々な取り組みを進めていくことが大事だと思います。

私自身、大学で「ビジネスエシックス」という講義を持ち、既に7年目に入っていますが、この間「ビジネスエシックス」の社会における重要性が非常に高まってきていると、強く感じています。

是非、皆さんから本エッセイ含めて、ご意見をお寄せください。

(2025年5月18日 記(暑くなってきて、今年の夏が心配です) イノベーション・インテリジェンス研究所 幸田博人)