子どもは知ることが大好きです。3歳や4歳頃になると、「これはなに?」「どうして?」と、目にするものすべてに興味を向け、質問を繰り返すようになります。いわゆる「なぜなぜ期」です。
私たちは知りたいという欲求をもって生まれてきているのでしょう。「学び」とは、もともともっと自然で楽しい営みだったはずです。けれど学童期に入ると、「学び」は時に苦痛を伴う義務のように受け取られることが多くなります。
それでも、私たちは本来、知ることそのものに喜びを感じる存在なのだと思います。
大人になった今、学ぶことの意味は人それぞれ異なります。今回は、私にとっての学びとは何かを、今、感じているままに書いてみたいと思います。
私は公認会計士として長年働いてきました。会計基準の改正や新しい概念の導入など、知識を絶えずアップデートしておくことが求められます。
家事や育児に追われながら知識も何とか継ぎはぎで間に合わせる日々。体も疲弊しますが、なにより「この知識で本当に足りているのか」という漠然とした不安がつきまとっていました。
職業人生はまだ続く。ならば今、足場を固め直したい。そんな思いから、40代後半でMBAに進学しました。
そこには、年齢もバックグラウンドも異なる仲間たちと共に学ぶ環境がありました。私はこれまで、会計士業界という比較的同質な世界で生きてきたため、多様な視点に触れる経験はとても新鮮でした。
マシュー・サイドの『多様性の科学』(2021年:ディスカヴァー・トゥエンティワン)では、集団の力を高めるのは「人数」ではなく、「異なる視点の交錯」であると語られています。
個々の異なる知識や経験が響き合うことで、個人では到達できない洞察が生まれる。MBAでの学びは、まさにその実感そのものでした。講義の中で出会う多様なテーマ、外部講師による実務に根ざした講演もまた、自分の中に新たな問いを呼び起こしてくれました。さまざまな立場の仲間たちと議論を交わす中で、自分の考えが揺さぶられ、広がっていく感覚を幾度も味わいました。
好奇心はさらに高まり、気づけば博士課程への進学を志すようになっていました。学会では、参加している先生方が惜しみなくコメントやアドバイスをくださいます。しかも、無料で。
先生方は他者の研究に時間を割いてフィードバックをしてくださるのです。この文化には、ビジネスの世界にいた私にとって驚きしかありませんでした。いまだに慣れないながらも、ありがたくその恩恵にあずかっています。
今、私にとって「学び」とは、ただ知識を増やすことではなく、他者と知を響き合わせ、自分自身もまた集団脳の一部となり、未来へと知を手渡していく営みと感じています。
これからも童心にかえり、知ることの楽しさを大切にしながら、好奇心の赴くままに学び続けていきたい。そして、博士課程での学びを、いずれ社会に還元できるレベルにまで高めていきたい。そんな静かな大志を、今、胸に抱いています。
(2025年4月29日 記 公認会計士 深谷玲子)