企業法務を担う一弁護士として、私はこれまで、リアル空間のビジネスの世界で法律実務に取り組んできました。しかし、近年、私はこれまでの世界とは異なる二つの空間における法的課題にも関わっています。それが、宇宙とデジタルの世界です。
超音速旅客機やサブオービタル飛行技術の進展により、宇宙空間を一時的に通過し、超高々度を飛行する大陸間輸送サービスが、近い将来、事業として実現する可能性を秘めています。しかし、このような新しい輸送サービスが登場する中で、シカゴ条約をはじめとする国際航空法と、宇宙条約などの宇宙法がどのように適用されるのか、明確にされていない点が多くあります。
昨年から、内閣府や国土交通省とともに大陸間輸送に関する研究会に参加し、こうした法的な課題の整理に取り組んでいます。どの高度までが国家主権が及ぶ「領空」と見なされ、どの高度からが「宇宙」となるのか、また航空機と宇宙機の異同は何かといった基本的な定義については、現状では整理されていません。このため、サブオービタルによる二地点間の高速輸送に適用されるべき規律については、まだ多くの課題が残されています。
昨年10月には、米国のスペースXが開発する大型宇宙船「スターシップ」の再使用型ロケット部分が発射台で回収される試験飛行に初めて成功しました。このように、宇宙技術は急速に進歩しており、それに伴って宇宙に関する規律や法的課題も次第に変化していくことでしょう。
一方で、コロナ禍が終息し、デジタル化がさらに進展する中、株主総会の在り方も大きく変わりつつあります。東京弁護士会・会社法部の部長として、商事法務『株主総会ガイドライン』の改訂作業を終えました。その中で、電子提供制度の導入や、議決権の電子行使、さらにはバーチャル株主総会など、総会運営のデジタル化が重要なテーマの一つとなっています。
たとえば、2024年における機関投資家向け議決権電子行使プラットフォームの利用企業は、プライム市場で97%に達しました。また、上場企業の20%近くがバーチャル株主総会を導入し、いわゆるハイブリッド参加型株主総会を実施した企業は、300社を超えました。従来の対面形式の株主総会から、バーチャル総会への移行が進む中で、遠隔地にいる株主や、時間的な制約がある株主を含むより多くの株主の意見が、会社の意思決定に反映される可能性が高まっています。
宇宙空間は無限の静寂に包まれ、星々の間で無数の問いが漂っています。一方、デジタル空間は、情報の渦に満ち、光の速さで交差する意識の網のようです。
宇宙の広がりとデジタルの網、どちらも人間の探求心を映し出す鏡のような存在です。共に、挑戦と可能性を秘め、私たちの未来を形作る重要な舞台であると感じます。
(2025年3月6日 記 弁護士・慶應義塾大学特任教授 菅原貴与志)