価値創造から価値獲得へ(京都大学 経営管理大学院  特命教授 加藤 晃 氏)

日本には凄い技術を持つ企業が多いと言われているのに、なぜ欧米と比べて利益率が見劣りするのでしょうか?これが私の素朴な疑問です。

以前に、「価値創造」「価値獲得」をキーワードに有価証券報告書をテキストマイニングしたことがあります。
多くの日系企業が「価値創造」に取り組む姿勢を表明する一方、「価値獲得」に言及している企業は極めて少数派です。

本当に差別化された製品・サービスを生み出し提供しているのであれば、創造された価値を堂々と利益として価値獲得すべきではないでしょうか?あるいは、すぐに模倣されてしまう程度のものなのか?もちろん、国によって税制や会計基準等は異なります。そうであれば、シンプルに売上総利益(粗利)で捉えてみてはどうでしょうか?

日系企業で売上総利益率が高いことで有名なキーエンス社は、83.8%(2025年3月末)です。なんと原価の6倍で販売している計算になります。なぜそのようなことができるのでしょうか? 

価値獲得は、米国ではどのように捉えられているのか?「value capture」でキーワード検索して、数冊の洋書を取り寄せて斜め読みした限りでは、DXを活用することによるダイナミック・プライシングが取り上げられてました。

需要に応じて価格が変動する航空券やホテル客室料(B2C)であれば分かりますが、相手の弱みに付け込むような販売方法は、長期的な取引(B2B)では信頼関係を棄損しかねません。

古典とも言うべき論考ですが、ハーバード・ビジネススクールのM.ポーター教授「戦略の本質」(1997年)の中で、「戦略ポジショニングは、競合他社とは異なる活動を行う、あるいは類似の活動を異なる方法で行うことである」、「品質、サイクル・タイム、サプライヤーとの関係などの改善について、競合同士が互いに模倣し合えば、戦略が収斂し、競争は勝者のいないレースとなり、どこの企業も同じ道をたどることになる」と述べています。

その上で、「ほとんどの日本企業に戦略がない - 互いにまねし、押し合いへし合いしている」と喝破しているのです。

前述したキーエンス社は、類似の活動を異なる方法で行うことで、押し合いへし合いによる消耗戦を回避しているように思えます。
アンチテーゼとして知られる「戦略は組織に従う」に首肯する次第です。

VUCAの事業環境下、とことん考え抜いても何が成功するかはやってみないとわからないというのが正直なところではないでしょうか?

異業種経験・異なる思考回路を持つ人の採用・育成、すなわち形式的ではないDE&I、そして失敗を許容する企業文化(心理的安全性の確保)が求められます!

読者の皆様はどう思われますか?

(2025年7月7日 記 京都大学 経営管理大学院  特命教授・東京理科大学 経営学研究科  嘱託教授 加藤 晃)