
■会社説明
治験/品質関連文書を共有し、管理・保存するためのクラウドサービス「Agatha」を医療機関、製薬企業、医療機器企業、CRO、SMO、臨床検査会社などに提供することにより、治験・臨床研究や製造の品質向上・スピードアップ・効率化に貢献することをビジョンに掲げてスタートした会社です。
最新のテクノロジーを用いて新しい治療法や薬が創出される仕組み・基盤を作り、世界中の人々の健やかな人生に貢献すること、そして将来の世界中の子どもたちが豊かな生活、文化、技術、医療にアクセスできる環境作りに寄与することをミッションとしています。
(アガサ株式会社:https://www.agathalife.com/)
■鎌倉千恵美氏:
1974年、愛知県生まれ、東京都在住。
名古屋工業大学大学院卒業後、総務省総合通信基盤局に入省。その後、2001年に日立製作所へ転職し、製薬・医療機関向けの新ビジネス開発と新ソリューションの基本設計、プロジェクトマネジメントを担う。2011年には製薬企業向け文書管理システムを手掛ける米国ベンチャーNextDocs Corporationの日本支社代表に。2015年10月、アガサ株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。 米国ライス大学 MBA 取得。
2024年11月には日経WOMANが主催する「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2025」、東京都が主催する「東京女性経営者アワード(TOKYO Woman CEO Award)」の【継続成長部門】を受賞。
2025年4月23日のインタビュー記事です
クラウドサービスを治験の世界で
幸田:2015年にアガサを立ち上げられて10年が経過します。鎌倉さんの自己紹介と会社立ち上げの経緯を教えてください。
鎌倉:大学では工学部でずっとITを学んでいました。新卒で総務省に入省後、「お客様に直接サービスを届けたい」と思い日立製作所に入社しました。
日立ではMBA留学としてテキサスのライス大学に行かせてもらいましたが、そこには有名な医療機関があり、周囲にヘルステックのスタートアップがたくさんありました。その時にヘルステックに興味を持ったんです。インターンシップでも医療機器のスタートアップを経験し、医療のIT化は面白いなと思いました。
帰国後は医療機関や製薬会社向けソリューションを提供する部署に異動となりました。2007年頃、日立グループの病院に行ったところ、会議室に30 cmほどの高さがある書類の束が 20 人分ほど並んでいたのを目にしました。
それは治験の会議のための書類で、会議終了後にはそれを回収して溶解・廃棄するという話を聞いて衝撃を受けました。他の治験をやっている病院でも同じ様な状況があるということも知りました。
2010年頃にクラウドサービスが広がり始めると、今まで大企業しか導入できなかったシステムが、中小企業でも導入できるようになりました。
これを治験の世界でやればもっと低コストで使ってもらえるのではないか、また、医療機関のITリテラシーも高くなってきたことから、事業化しようと思いアガサを立ち上げたのが 2015 年です。
会社を辞め起業し、コロナ渦でビジネスを加速
幸田:当時、病院での治験に関する非効率性を踏まえたIT化やデジタル化の必要は十分ニーズが高いということに着目され、そこで思い切って、会社を立ち上げたとことは素晴らしいと思います。
逆に言うと大企業の中でのソリューション提供の限界のようなことを感じていたのですか。
鎌倉:この事業は、元々日立で立ち上げようと考えていました。ただ、クラウド対応させても導入いただくには1億円弱の費用が必要で劇的にコストは下がりませんでした。
また、製薬会社がグローバルに展開している中、日立では日本国内でしか売れないという制約があり、コスト面やグローバル対応への難しさに課題がありました。ですので、自分で会社を立ち上げるしかないと思いました。
幸田:今でも日本で女性の起業家は非常に少なくて、当時だとなおさらだったと思います。大企業からの転身ということで周りの反対や心配とかは、どうでしたか。
鎌倉:周りからの心配はあったと思いますが、あまり気にしない性格なのかな、と思います。ただ、日本では起業がしにくく、失敗したときのリカバリーの難しさはあると思います。
私自身のことで言えば、夫がいるため失敗したとしても生活面の不安は少なく、思い切ってチャレンジができました。また、自分の時間を起業に集中させることができたことも恵まれていたと感じています。
幸田:起業からの10 年間どのように成長を進めてきたか、お話しいただけますか。
鎌倉:最初の数年は、私たちがやりたいことと世の中のニーズとの検証を行いました。ただし、ニーズはあってもなかなか受注には至りませんでした。
その後、コロナ渦で製薬企業・医療機関共にDXをせざるを得なくなるというという追い風があり、2021年頃からビジネスを加速させることができました。そして、今もその加速が続いている状況です。
幸田:この分野のスタートアップは少ないですか。
鎌倉:少ないですね。医療分野やITだけでなく規制も熟知する必要があります。また、世界中の規制に対応しなければいけないため、新規参入ハードルは高いと考えています。
グローバル展開におけるボトルネック
幸田:この10年間の中で、事業を成長させていくにあたってのボトルネックはどう捉えて、どう取り組まれていますか。
鎌倉:成長を加速させるための課題としては、現在、売上の約2割をしめる海外ビジネスを2030年までに5割まで伸ばしたいと考えています。しかし、海外ビジネスを加速させるための勝ちパターンがまだ作れていないところがボトルネックかと思っています。
幸田:グローバルの視点と国内とを掛け合わせていくところは、事業モデルとしては難しくありませんか。
鎌倉:はい。弊社の場合、海外のメンバー3人を含めて4人で起業し、最初からグローバルでプロダクト展開をする前提でビジョンを描いていました。プロダクトも開発当初から基本英語でできており、その上に様々な言語を対応させていきました。ただ、そうは言ってもスタートアップのため、最初は日本からスタートしました。
幸田:よく日本でユニコーンが少ない理由の1つに最初からグローバルを意識していないという議論がありますが、そこは、鎌倉さんの会社の場合、かなりクリアされていますね。
今後、うまく成功されていかれたら、スタートアップとしてのグローバルな事業提供の非常に先進的なモデルになる感じがします。スタートアップでグローバルにやっていく中で、難しさはどの辺りにありますか。
鎌倉:創業当初は私と海外メンバーと日本マーケットからスタートしたのですが、規模の拡大とともに人材を採用する必要がありました。英語と日本語をどちらも話せる人材を採用してグローバルでコミュニケーションが取れる状態を維持したかったのですが、処遇が高いという課題がありました。
また、今後、両方をきちんと話せる人を採用できるようになったとしても、本来必要であった日本語と英語が一体化した文化にまた戻すためには非常に時間がかかります。
ミッションを実現できる楽しさと、サービスを提供し続けていく責任の重さ
幸田:起業の楽しさと、一方で苦しさも教えていただけますでしょうか。
鎌倉:起業の楽しさは本当に自分のやりたかったミッションを実現できるということです。
1日も早く患者さんに薬を届けるためにテクノロジーでサポートすることをミッションとしているのですが、会社のメンバー全員で共通の目標に向けて進めていけること、それを多くのお客様にも支えていただいて実現できるというのは、こんなに嬉しいことはないと思っています。
一方で、苦しいことではありませんが、これまで進めてきた事業をしっかりと継続していきながら、どんどん高まっていくお客様の期待を超えるサービスを提供し続けていかなければならないことに責任の重さを感じています。
幸田:少し横道にそれますが、日本はなかなかデジタル後進国から抜け出せていないということについて、構造的な問題など様々な理由があると思っています。鎌倉さんのご意見もお聞かせください。
鎌倉:まずは言語の問題があると考えています。日本には英語が得意でない方が多いため、テクノロジーの進化に追いつけない場合があるのではないかと思います。
しかし、生成AIを使えば今後基本的に言語の壁はなくなるため、次は文化や歴史の厚さが強みになる局面だと思います。世界の中でも日本には素晴らしい文化や歴史があります。これらを大事にしながら強みを作っていくことはチャンスになると思います。
強みを活かしてグローバルナンバーワンになりたい
幸田:スタートアップを作って成長していく中で、今後の日本の社会に期待していることについてお話しください。
鎌倉:将来の子供たちが日本のテクノロジーや文化に自信を持って、明るい未来に自信を持てる、そんな世界になっていくといいなと思います。
幸田:最後にアガサ社のこれからの展開について一言お願いします。
鎌倉:日本ではシェアナンバーワンを取れていますが、2030年までに製薬会社と病院をつなぐことができるという強みを活かしてグローバルナンバーワンになりたいということが現在描いている目標です。
幸田:是非頑張ってください。期待しています。
鎌倉:貴重な機会をありがとうございました。