#27 トランプ時代、8月の様々な動きから見えてくる2つの観点

8月も世界はトランプ大統領に翻弄されています。

トランプ大統領は夏休みも取らずに職務に励んでいますので、本来8月はマスコミ的にはネタ枯れが多い時期ですが、夏休みやバカンスという空気は全くなくあわただしい日々が続いています。8月のイベントを列挙してみると、トランプ大統領の相互関税に係る大統領署名で新税率発動が8月7日からスタートし、

●8月1日に公表された米雇用統計をトランプ大統領は不正と決めつけ局長を解雇
●8月12日には日経平均株価が史上最高値(4万2,900円台をつける)
●8月15日にトランプ大統領はロシアのプーチン大統領とアラスカで会談、その後ゼレンスキー大統領との会談、その後欧州首脳陣をまじえての会談
●8月20日から22日にはTICAD9(第9回アフリカ開発会議)を横浜で開催
●8月23日には日韓首脳会談8月25日にはトランプ大統領がFRB理事を解任
●8月26日には日経・朝日が米国AIのパープレシキティを提訴
●8月27日には三菱商事が洋上風力発電から撤退発表
●8月28日はNYダウ45,636ドルをつけ最高値更新
●8月29日は日印首脳会談を行う、法務省が外国人受け入れに関する論点整理の私的勉強会の中間報告を公表
●8月31日から上海協力機構首脳会議が開催されロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相などの参加など

様々な動きが目白押しで、とてもネタ枯れの8月とは言えないあわただしさでした。これだけのことが次から次に生じてくると、日々の動きを表面的に追っかけることが精一杯で、次に向けての考えをまとめていくのは大変です。

こうした8月の様々な動きから見えてくるものは何でしょうか。
2つの観点を感じました。

一つは、トランプ時代に入り未来の絵姿が不透明になり、予測不能の下でどちらかというと迷走していることも多く、世界ではトランプ時代を前提としたそれぞれの国家の安全保障やその国の置かれた位置の見直しを模索し、どう組み立てていくかの新たな合従連衡的な模索が始まっているということです。

そうした取り組みに力を注いでいく国々が増えていくことが見てとれます。そういう中でも米国第一主義がどう進んでいくか、米国の産業競争力が復活するのか、イノベーション力や研究力がどうなるかなど、米国自身の状況を冷静によく見ていく必要があるでしょう。

以前ご紹介したこともある高坂正堯氏の『文明が衰亡するとき』(新潮選書;2012年5月、原著は1981年11月)を、企業向けの研修の課題図書にすることを予定していて再読しました。

この中に、ローマ帝国の衰亡を語っているなかに、
「権力の座にある人間はだれかに打倒されないだろうかという懸念を持っている。・・・上から下を見て、あすこに陰謀をめぐらしている奴がいるとか、あいつは恐ろしい批判者であるかと思うと本当に怖くなってくるものらしい、最高権力者は自分一人しかいないから、かえって怖いものである。・・・権力者のこうした心理を考えるとき、自分の言いなりになる元老院がいかに必要であったかがわかるであろう。」(45ー46頁)とあります。

このあたりは文明が進化しようが、古今東西、権力者にとっては全く変わらないありようと思います。こうした権力者のありようから考えると、米国自体を衰亡的な感覚で見ていくのか、新たな米国を創りなおす可能性を見ていくのか、そうした岐路について冷静に見ていくことは大事でしょう。

8月の事象から見てとれるもう一つの点は、不安定な世界情勢とマーケット(市場)の状況との落差に関わることです。

トランプ大統領が夏休みもとらずに毎日働いていることもありますし、世界中で紛争がおさまらないことも大きく影響していて、世界が混乱の崖っぷちにたっていると思われます。
それにもかかわらず、日本の株価も米国の株価も史上最高値をつけているということ、これをどう理解すればよいのかということです。現状の米国も日本も企業業績は悪くない、今後の企業業績は関税問題もあり、やや陰りを示すだろうという方向感にもかかわらず、株価は楽観的で史上最高値を更新している状況です。

マネーがだぶつき状態にあることがこうした株式市場の活況につながる大きな要因ではありますが、リスク要因にはやや目を閉じて、楽観要因を探して株式市場が最高値となっている面も見え隠れしています。これこそ、想定外のことでクラッシュが起きる可能性もなくはないことを慎重に見ておく必要があると思います。

振れ幅の大きい世界情勢の下での目先の対応は必要だとしても、日本で先送りにしていた構造改革について、本格的に中期的社会課題テーマに取り組むことが必要でしょう

人口減少社会を前提とした社会のあり方、働き手不足問題、「学び」のあり方、研究力向上、移民問題、財政と国民負担の問題、エネルギー問題などかなり複雑で、国民との新たな合意を得ていくことが多いものと思います。

例えば今回の三菱商事の事象から浮かび上がること、日本において再生エネルギーのハードルは高いがその取り組みは不可避であることで、もう一度エネルギー問題の全体像について再考が求められます。

2025年、残すところ4カ月。2026年に向けて世界の中で日本のGDPは第3位ではなくなったものの、日本がリスペクトされる国家や国民として活動していくことを目指し、どういう道すじで進むべきか、場当たり的でなく将来を見据えた本格的な考え方に基ずく対処に向けて、政府・民間での議論が一層求められます。

皆さんから本エッセイ含めて、ご意見をお寄せください。

(2025年8月31日 記(まだまだ酷暑が続くと言われつつ)
イノベーション・インテリジェンス研究所 幸田博人)