5月の最終週に、7年振りにiPhoneとiPadを新しい機種に買い替えました。 現在持っていたiPhoneとiPadから、メール、メッセージ、予定表、写真などがうまく移行できるかどうか心配で、これまで買い替えに相当躊躇していました。 ただ、動画や講演などの外部収録の関係で、最新鋭のカメラ搭載などの必要もあって買い替えました。データ移行は、新旧の機種を隣においてカメラ上で重ねるだけで、全てのデータ移行が一瞬で終了し、その後全てのアプリも簡単に移行できました。 本当にテクノロジーの進歩は凄いと思いました。こうしたデジタルデータは、凄まじい勢いで集積されていきますが、その集積された全てのデータを人が咀嚼しうることはないでしょう。 もはや、生成AIしか活用できないデータ量になると思いつつ、生成AIが活用するデータでしかないとすれば、その意味や意義はいったいどういうことなのか、思いを巡らせてみるとなかなか難しいところです。 そういうこともあり、最近「記憶」とは何かということを考えることが増えています。記憶は「短期記憶」と「長期記憶」から構成されているといわれます。 「短期記憶」は時間の経過で忘れる記憶で、少しの間覚えておく記憶です。 本話題は「長期記憶」ですが、この中には個人的な経験や社会的な事象の記憶などが主要なものとなります。過去あった出来事や思い出などはエピソード記憶といわれ、その記憶にかかる情報が脳の各エリアに保存されそれらが結びついてエピソード記憶になると言われています(乾敏郎/門脇加江子『脳の本質』(中公新書 2024年)など参照)。 大脳における記憶量(容量)には限界があるとのことなので、現在のような情報量が洪水のように押し寄せていると、どういうことが起こるのでしょうか。古い昔の記憶は消えていくのかどうか、興味は色々と生じます。 私は以前、メルマガ17号(2025年4月9日配信)で、NHKで放映された第97回アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞ノミネート作品の『Instruments of a Beating Heart』の紹介から、記憶に係る話を記述しました。以下、少し長めの引用になりますが、ご容赦ください。 「筆者は、小学校1年生の成長の姿を見ていて、この「エッセイ」のテーマでもある「記憶」と「記録」について、改めて考えさせられたところです。 筆者自身の数十年前の田舎の小学校1年生を思い出してみようとしましたがほとんど白紙で、「記憶」すら全くないです。多分、毎日小学校に歩いて通っていたことだけは確かですが、・・・(中略)・・・ 何かの「記録」があれば、手がかりになって思い出すことも出てくるのでしょうが、そうした手がかりもなく、もはや「記憶」は脳の奥にあるかもしれませんが、思い起こすことは難しいと思いました。・・・(中略)・・・ 現在は昔と異なり、スマートフォンを常時持ち歩いているので、時々写真をとるだけでその日の「記憶」が「記録」化しておくことが可能な時代です。 このスマホは、昔の「記憶」を十分に呼び起こすことが可能となる極めて重要なツールです。皆さんもスマホの写真機能を日々の日常生活で活用して保存しておくことを、筆者としてはお勧めしておきたいところです。」 少しエモーショナルかもしれませんが、「記憶」は個々人が現在持っているある種のストレージで、これをうまく活用できるかどうかは、人生の過ごし方に大きな影響を与える事象だと思います。 もちろんポジティブな記憶と、苦い記憶や心に負担が強くくる記憶など、感情的な要素と大きく関わることから、単純に「記憶」が多ければよいということでもありませんし、またどういう「記憶」に意味をもたせるのか難しいところです。 最近、教育学者、哲学者の西平直さんのエッセイ集『内的経験 こころの記憶に語らせて』(みすず書房 2023年)を読んでいます。冒頭のところに、 「子どもの頃、何をしていたのか。記憶がない。・・・ほとんど思い出すことはできないのだけど、それでも、何か残っていたのだろう。大きくなってから、「子どもの時の感覚に似ている」と感じる場面が何度か訪れた。」(3P)、 「子どもの頃、よく空を眺めた。雲を眺めていたのか。・・・夕暮れはいつも少し寂しかった。そのかわり、空に星がきらめきはじめるのは嬉しかった。」(7P) などから感じることは、筆者自身、昔のことを思い出したいのかどうかよくわからないですが、この懐かしさの感覚は人それぞれで、貴重なこととも思います。 デジタル化した世の中で、前述したように、デジタルを活用して「記憶」が想起できる場面が増えてくれば、それは筆者は有用と考えていますが、そうした仕組みが浸透すればするほど、人間の感覚や感情などもデジタル化された「記録」を通じた「記憶」が、何を個々人にもたらすか、大きく変わるかもしれません。 今回はこのあたりとさせていただきます。 是非、皆さんから、本エッセイ含めて、ご意見をお寄せください。 (2025年6月1日 記(少しは情報の洪水から離れたいと思いつつも)イノベーション・インテリジェンス研究所 幸田博人 |
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