#22 令和のコメ騒動から考えたこと~文明論的な視点とコメ政策の抜本的対応に向けて~

令和のコメ騒動について、皆さんどう感じていますか。あらためておコメのことを考えさせられたのではないかと思います。

筆者は、日本史の教科書に乗っていた大正時代のコメ騒動(1918年)のことを思い出しました。107年前のことになります。少し、長いトレンドで見ていきましょう。

大正時代のコメ騒動時の日本の人口は5500万人でした。現在は、1億2,300万人です。足元、人口減少とは言え、107年間で人口は2倍に増加しています。

お米の収穫高を見てみると、1918年は802万トンだったところ、2024年は679万トンですので、今の方が少なく、当時の85%の収穫高です。単純計算で、1人あたりに換算すると、現在は1人あたり0.055トンで、当時の1人あたりコメ消費量の1/3の水準となります。

1918年(大正7年)に起こった大正のコメ騒動は、この年が第一次世界大戦の終戦の年になりますが、第一次世界大戦による米価の急騰、シベリア出兵をめぐる米商人の買い占め、貧困層の生活困窮(当時の格差拡大と日本人の白米食への強い憧れ)などが理由と言われています。

1918年7月に、富山県の漁村の主婦たちが米の県外移出の禁止と安売りを求めて立ち上がったことがきっかけで、騒動は瞬く間に全国に拡大していきました。
警察だけでなく軍隊までが出動して鎮圧にあたるほどの大規模な騒動となり、当時の当時の寺内正毅内閣は責任を取って総辞職するに至りました。後任は原敬首相となり、本格的な政党内閣が発足し、大正デモクラシーの時代に入りました。

こうした大正時代のコメ騒動と今回の令和のコメ騒動は、時代も違えば、意味付けも大きく違いますが、日本社会や日本国民にとってのコメの役割の大きさや象徴性ということの共通性を、あらためて強く感じました。

今回の令和のコメ騒動は、大正時代のコメ騒動とは異なり、社会全体を巻き込むような暴動には至っていませんが、消費者の生活に大きな影響を与えました。

令和のコメ騒動は、天候不順による収穫量の減少、流通構造の変化と投機的行動、減反政策、需要の変化(コロナ禍からの外食需要回復やインバウンド需要の増加)、労働力不足・高齢化(農業従事者の高齢化で増産困難)など農業における複雑で簡単には解きほぐせない事象として生じています。

バブル時代のピークに出版された岩波新書で『コメを考える』(祖田修著;1989年2月)を手にとったところ、35年前の書籍にも拘わらず、色々と参考になる部分がありました。

「日本人は、このひたすら律儀で几帳面な労働を必要とする面倒な稲作、とりわけ泥と汗にまみれるつらい水田稲作を、よくも選んだものだ」(2頁)、

「日本稲作社会の勤労観こそ、こんにちのわれわれの経済的繁栄をもたらしたのだといえるかもしれない。」(2頁)、

「日本人は稲を選んだことによって、今日の飽食と経済的繁栄の世界を築きあげてきたが、皮肉なことに、その繁栄の極点において、世界一の農産物の輸入国となり、ついにはコメも捨て去ろうとしているともいえよう。歴史の奇しきパラドックスのようにも見える。」(3頁)、

「単にコメと農業をどうするかという問題にとどまらず、日本の経済と社会、さらには人類の未来をどうするかといった、複雑で困難な問題が象徴的に内包されていることに気づくのである。」(204頁)


35年前のまさにバブル時代のピークに、こうしたコメ問題に内包している文明論的な意義が指摘されていました。そういう観点で、現代こそこうした文明論的な観点からさらに考察を深め、日本社会と食の問題の重要性に思いをはせることが求められます。

当時は米国からの輸入自由化の圧力にどう対処するか、コメ生産の担い手や食管制度のあり方などが議論され、その後の食管制度の廃止や減反政策の加速化などにつながりました。

今回の令和のコメ騒動からは、そうしたコメ政策や食糧政策が、まさに時代に合わなくなっていることが露わになったとも言えると思います。コメ政策のポイントは、減反政策の廃止と、供給者サイドの大規模化と、消費者に安く提供しつつ安定化した米価の実現であります。

長年こうした視点で、農政の問題について発信し続けている方がいます。キャノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹です。

基本的には共感できるところで、減反政策を廃止し、農地を農家に集約し規模を拡大し、海外にもコメを供給していくことが長期的な政策として実行できるかが問われています。

令和のコメ騒動について、今後、日本社会の行く末や文明のあり方も含めて考えつも、経済的な視点で農業分野を位置づけて農業政策を本格的かつ抜本的に見直し取り組んでいくことは、日本の社会を時代に合うものに変革していくためにも、欠くことができないプロセスであることをあらためて感じた次第です。

是非、皆さんから、本エッセイ含めてご意見をお寄せください。(2025年6月1日 記(You Tubeチャンネル開設しました)イノベーション・インテリジェンス研究所 幸田博人)