#3 ~暑い夏から「ネガティブ・リテラシー」を参考に考える~

9月に入って慌ただしく過ごされている方、多いと思います。

8月は例年ニュースが夏枯れの時期になることが多いところ、今年はパリ五輪での日本勢の大活躍のニュースに加え、株価の歴史的急落とその後の上昇、岸田総理の退陣とその後の自民党総裁選の多数の方々の立候補に向けた動き、米国ハリス副大統領の民主党大統領候補への指名とトランプ元大統領との選挙構図に一変したこと、また宮崎日向灘の地震と南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)、台風10号の1週間にもわたる影響など様々な自然天災などありました。

夏休暇をとられていた方々にとっても大変騒がしく、計画通りにいかない夏休みになった方も多かったのではと思います。

前回のメールマガジンでは、昭和13年発刊の岩波新書の寺田寅彦著「天災と国防」(昭和13年11月15日刊;定価50銭)の話題の中で引用した「20世紀の現代では日本全体が一つの高等な有機体である。各種の動力を運ぶ電線やパイプが縦横に交叉し、色々な交通網が隙間なく張り渡されている有様は高等動物の神経や血管と同様である。その神経や血管の一箇所に故障が起ればその影響は忽ち全体に普及するであろう。」(140頁)ということを、あらためて再認識されたところです。

日本を取り巻く自然災害はますます増加し、加速する気配であり、簡単にいかない防災を前提とすると、個々人の自然環境との向き合い方にも、利便性にとらわれ過ぎない心持ちが重要になっているような気がします。

先月8月20日発刊の岩波新書「あいまいさに耐えるーネガティブ・リテラシーのすすめ」(佐藤卓己著)を先週読む機会がありました。

佐藤卓己氏は、長年京都大学教授でメディア文化学の研究をされ、世論(空気)と輿論(意見)を区分けして考え、また尾崎行雄氏の「輿論主義」の大事さを提唱されています。本新書では、2010年以降の政治と世論調査の位置づけや、「情報社会」ではなく「情動社会」ということを論じた興味深い論考です。

その中で「私たちに必要なのはAIが不得意とするあいまいな情報に対するリテラシーである。その場合、むしろ消極的(ネガティブ)な視点でメディアリテラシーを考えるべきではないのか。それは情報をやり過ごし、不用意に発信しない力である。」(193P)とあり、情報過剰時代の生き方が示唆されています。

毎月の支持・不支持率のマスコミの世論調査に一喜一憂する政治家・マスコミ・国民、日々の株価や為替レートの動向に神経質になりすぎていること、また様々なランキングの世界に取りこまれている状況などを念頭におきつつも、本質的なこと、構造的な枠組み、歴史的な知見などを重視する思考を大切にすべきだと思います。

9月以降もこうした視点を大事に、様々な発信を『金融・資本市場リサーチ』やその他の媒体(書籍など)を通じて行っていきたいと思います。

是非皆様からもご関心の向きについては、色々とご教示いただければと存じます。

ありがとうございました。

(執筆2024年9月2日 記 イノベーション・インテリジェンス研究所 代表 幸田博人)