約30年、資産運用会社の運用部門で仕事をしてまいりましたので、本日は、私が最近の金融市場で注目している点についてお話します。
みなさんご認識の通り、トランプ政権の高関税政策が世界を揺さぶっています。4月2日の相互関税計画発表後、米国では株式・債券・通貨のトリプル安に見舞われ、4月8日までに米国株は約12%下落しました。
しかし、4月9日にトランプ大統領が関税方針を変更すると、世界的に株価は反転し、米国株も史上最高値まで4%の水準に回復しています(5月末時点)。市場の動揺は一旦収まったように見えますが、今後もこれまで通り、米国一強、MAG7などITテック企業の株価が市場を牽引する展開が続くのでしょうか?
答えは誰にもわからないのですが(スミマセン)、本年の株式市場はこれまでとは違う動きも見られます。
1)欧州株が米国株のパフォーマンスを凌駕している
これまで、長らく(10年以上)欧州株は米国株に劣後してきましたが、年初来のパフォーマンスでは逆転しています(欧州+21%($建)、米国+0%)。
欧州株好調の要因として、割安なバリュエーション、ドイツ政府による予想以上の財政刺激策などが挙げられますが、関税による経済への打撃は欧州より米国に深刻だろうとの見方(ECBは今年既に3回利下げを実施しているが、FRBは関税によるインフレ上昇リスクから利下げを見送っている)、及び、最近のトランプ政権の国際社会でのスタンスから世界の投資家が米国株に偏りすぎていたポートフォリオを是正する動きを反映している可能性もあると考えています。
2)米国株の中で、資本財・サービス(資本サ)関連株がインフォメーション・テクノロジー(IT)関連株のパフォーマンスを凌駕している
これまで、長らく(10年以上)米国株の良好なパフォーマンスの牽引役はIT関連株でしたが、年初来のパフォーマンスでは資本サ関連株です(資本サ+8%、IT -2%)。
資本サ関連株堅調の要因として、世界各国での国防予算増加を背景とした防衛関連株の好調さが挙げられますが、今後の米国の成長を牽引するのは、アウトソーシングを基盤とした資本効率重視のビジネスモデル(IT関連企業が代表格)だけでなく、米国での中長期的な製造業復活(資本サ関連)が多少なりとも視野に入り始めている可能性もあると考えています。
最後にもう一点、申し上げます。
株式市場には先見性があると言われていますが、間違えることもあります。では、一見楽観的に見える現在の株式市場が間違っているとすれば、何が要因となるのでしょうか?
色々ありえますが、コントロールできていると解釈されていた問題に綻びが見え始めると市場は敏感に反応します。債券市場の混乱(長期金利の上昇)には注意が必要です。
トランプ政権下、米国の政府債務が拡大し続けるにもかかわらず、経済成長を促進できず、ドルや米国債から資金流出が生じるシナリオについては頭の体操をしておくと良いと思います(備えあれば憂いなし)。
勝手なことばかり申し上げました。皆様のお仕事または資産運用の何らかの参考になれば幸いです。
(2025年5月31日 記 丸山隆志 – 外資系および日系の運用会社にてChief Investment Officerを務めた後、現在はキャリアブレイク中で、新たな挑戦に向け自己研鑽に励んでおります)