#36 「伊能忠敬」と「探究心」

新年、トランプ大統領のベネズエラ急襲が世界を驚かせ、中米や南米の国々に「ドンロー主義」と称して圧力をかけ、さらにはグリーンランド獲得の意欲を示し、またイランへの介入を公言するなど覇権主義はとどまることがない勢いです。

また日中対立からのレアアース問題がクローズアップされ、さらには高市政権が衆議院解散を予定し、それに対抗して立憲民主党と公明党の統合で中道改革連合が発足を予定するなど風雲急をつげています。

そうした中で東証株式市場の史上最高値更新、円安進行、長期金利の上昇などマーケットの状況も気になるところです。

本日の話題は、私が新年に日帰りで千葉県香取市に小旅行をした話をご紹介します。

千葉県香取市と言っても、どのあたりなのかすぐに思い浮かぶ方は少ないのではと思います。千葉県北東部の利根川沿いの街で2006年に合併して香取市となっています。
当時の佐原市と香取郡の3つの町が合併したものです。

人口は6万6千人程度で農業が大変盛んで、千葉県随一の米どころということです。
私自身は伊能忠敬のゆかりの地(元佐原市のところ)に一度行きたかったことがあり、今回小旅行をした次第です。

1月4日(日)に新宿から電車で向かいました。
新宿駅-本八幡駅(都営新宿線)、京成八幡駅-京成成田駅(京成線)、成田駅-佐原駅(JR東日本)の行程で2時間30分程度です。
電車で行けるので不便ではないのですが、京都に行くのとそれほど変わらない時間がかかります。

成田駅は成田山新勝寺の新年お参りで大混雑でしたが、それを横目で見ながら成田線銚子行きにのり、ローカル線を気ままに田園風景の中揺られながら佐原駅に到着しました。
朝8時過ぎに出発して11時過ぎに到着です。

佐原駅からは、地元(香取市役所)の観光循環バスが出ていて、主要観光地である忠敬橋(伊能忠敬記念館)、香取神宮、水の郷さわらなどを回ることができます。
これに乗り、まずは伊能忠敬記念館に向かいました。

伊能忠敬生誕280周年ということでの記念特別展もあり一見の価値あります。
観光客もそれなりにいて賑わっています。
伊能忠敬は当時正確な日本地図がないところ、50歳を過ぎてから日本全国を測量して歩き、足掛け30年かけてほぼ正確な日本地図を完成させました。

50歳で江戸にでるまで佐原で醸造業などを営んでいたことから、佐原に記念館があるということです。偉業というしかありませんが、出発点は天文学の「学び」で、幕府の天文方(暦を司る職)の高橋至時の弟子となり「学び」が本格化したとのことです。

どういう好奇心だったか大変興味深いところですが、50歳過ぎてからまさかの全国測量で粘り強く実行する能力など、素晴らしいの一言です。
鎖国していた徳川幕府の下でこうしたことに取り組むことができたのは、伊能忠敬本人の稀有な能力は言うまでもないですが、高橋至時をはじめそれを支えた周りの人々も、本当に凄いことです。

これからの日本を考えるときに、こうした人材がどうしたら輩出できるか、周りでサポートするチームをどう作れるかなどとても大事だと思います。伊能忠敬記念館のあと、バスで香取神社に向かったのですが、大渋滞で断念でした。

昨年ノーベル賞に日本の2名の科学者が受賞し、日本中湧きたってから3か月が過ぎました。その受賞者の北川進さん(ノーベル化学賞)、坂口志文さん(ノーベル生理学・医学賞)からは、「基礎研究」に対する問題意識が提起されています。

ノーベル賞授賞式前の公式記者会見でも、坂口さんは、「今回の受賞をきっかけに、社会全体が医学や医療研究の重要性を認識してくれることを願っている。」、北川さんからは、「基礎研究が成果を挙げ、活用されるには25年ほどかかる。長期の資金が必要だ。」と話していました(Y!ニュース;2026年1月5日配信)。

日本の基礎研究に対する資金的なベースの不足感が、将来の日本の科学技術の停滞を招くのではないかという危機感が大変高まっているところです。

今年スタートする第7期の「科学技術・イノベーション基本計画」(2026-2030)では現在策定中でありますが、その中の第1の柱に「知の基盤としての「科学の再興」」として基礎研究の投資の促進などもうたわれており、危機感は共有されはじめているとは思います。

しかしながら、大学での資金不足、国の研究所の資金不足、博士課程人材のポスドク問題など複雑で簡単には解決しない問題が山積みです。今回のノーベル賞は「過去の栄光」だと揶揄されたりもしています。難しい問題ですが、これを乗り越えていくように取り組んでいきたいところです。

理系の基礎科学研究者(物理学者)である大栗博司さん『探究する精神』(幻冬舎新書、2021年)はとても参考になる新書です。本人の少年時代から現在までを振り返りつつ、その中でどういう視点で「学び」「研究」をしてきたのかが詳細に語らえていて大変興味深いです。

いくつかポイントとなるところピックアップします。
大学までの勉強には、三つの目標があり、「自分の頭で考える力を伸ばす」「必要な知識や技術を身につける」「言葉で伝える力を伸ばす」です(同書41頁参照)。

そして、大学院でつけるべき三つの力として、「問題を見つける力」「問題を解く力」「粘り強く考える力」です(同書141-143頁参照)。
大学までに基礎力をしっかりつけて、その上に大学や大学院で新しいことを探求していく力をいかにつけていけるかにかかっていることがよくわかります。

そうした能力は重要だと思いますが、環境や本人に力に左右されることでしょう。また「一見役に立ちそうもない好奇心に駆られた研究が、長い目で見ると社会に大きな利益をもたらす例は数多くあります。・・・基礎科学の研究は知的好奇心の駆られて行うもので、何かあらかじめ与えられた目的を効率的に達成するためのものではない。・・・価値の高い発見をするためには、研究者の探究心が卓越したものでなければならない。」(同書299-307頁)などから、キーワードは「好奇心」「探究心」と見てとれます。

若い方々の「好奇心」「探究心」などをどうやって育んでいくのか、これこそが大事なテーマと思います。伊能忠敬のように「好奇心」や「探究心」が相当あり、測量でかなえたい願望を胸の中に秘めていた大人物もいるでしょう。

若い方々だけではなく、シニアの「好奇心」「探究心」も大事でしょう。まだまだ考えていきたいテーマです。

皆さんから、本エッセイ含めて、ご意見をお寄せください。

2026年1月18日 記(グリーンランドへは、コペンハーゲンかレイキャビックから直行便のようです)イノベーション・インテリジェンス研究所 幸田博人)