| 今回の話題は10月からスタートしたNHKの朝ドラ「ばけばけ」です。 私は大変興味深く毎日視聴しています。 まだ始まったばかりで1か月たったところですが、皆さんご承知の通り小泉セツと小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)夫妻がモデルです。 興味深いのは、松江を舞台に明治維新後、旧態依然のままにとどまっていた多数の人々は「脱亜入欧」のスローガンの下での急ピッチの近代化、西欧化に戸惑い苦闘していた人々が見て取れるドラマになっています。日本史の教科書で明治維新後の日本の近代は不平等条約の是正を行い、欧米列強諸国に並ぶため「富国強兵」「殖産興業」を目指した当時の取り組みは学んでいます。 私自身、抽象的な明治時代のイメージしか持っていなかったところ、今回のドラマを通じてあらためて「武士の商法」がいかに無理があったのか、英語教育の試行錯誤、目玉焼きは明治時代に初めて入ってきたとのことなど、明治維新以降の社会制度や社会生活の大きな変化がビビットで目に見える形のドラマで、大変興味深いところです。 この時代の荒波を生き抜いた方々は大変だっただろうと思いつつも、それぞれが試行錯誤しながらもとにかく前向きに取り組んでみるという精神で乗り切ろうとしていたことが強く感じられます。 もちろん時代の大きな変化に取り残され、見捨てられた方も多かったと思われ、そうした人々の苦労も偲ばれるところです。今の日本はSDGsという国連の持続可能な開発目標の下で、「誰一人取り残さない」を理念としてのキャッチフレーズに、マイノリティを強く意識する時代になっていること、約150年前頃の明治10年代のすさまじい変化の中でおそらく取り残されていった人々との大きなギャップに、あらためて驚かされるばかりです。 今年2025年は「戦後80年」にあたり、また「昭和100年」の年ということで、そうした区切りの年だという視点から様々なことが語られています。 この「昭和100年」というとらえ方は昭和元年が1926年(12月25日)にはじまったので、今年2025年(令和7年)が昭和元年から100年目にあたるので、「昭和100年」となるということです。今回は「昭和100年」関連で少し考えてみたいと思います。「昭和100年」ということは、昭和のスタートの1926年から昭和が64年まで、平成が31年まで、そして令和が7年目で、3つの元号を経ていることになります。 今年は明治スタート時からだと157年目にあたります。西暦では50年、100年という区切りで、起きた事象から●●年ということで位置づけていき、過去を振り返り未来へのメッセージ発出されるわけですが、元号の場合はそうした西暦の区切りではなく、当然別の概念のくくりとなります。 そういう意味では「戦後80年」には西暦の区切り方と同様の概念になりますが、「昭和100年」という区切り方はどう位置付ければよいのでしょうか。 ちなみに「明治100年」当時は様々な記念式典・イベントが行われました。「明治100年」には1868年の「明治維新」から100年ということが内包していて、「明治維新」という大きな転換点から100年という西暦的な区切りと類似の位置づけとなります。 そういう観点では「昭和100年」には「明治維新」のようなことが内包していないので、昭和が始まってから100年という面でとらえて、それから何らのインプリメンテーションを考察するということで、「昭和100年」を一つの単位でとらえたくくり方としていることが見て取れます。俳人の中村草田男が「降る雪や 明治は遠くなりにけり」と詠んだのは昭和6年、1931年で、当時30歳でした。中村草田男は明治、大正、昭和という3つの年号をまたいだことを意識して、こうした句が出てきたものと言われています。 しかしながら明治の終盤からわずか20年強なので、今から思うとそんなに遠くないのにとも思ってしまいます。私の感覚では平成は平成30年の失われた30年ということで、いまだそこからの脱却に四苦八苦している状況ですので身近でありますし、昭和もやや遠くなっているかもしれませんが、昭和の最後はバブル時代でもありまだまだ身近です。今回「ばけばけ」の視聴を通じながら明治が近くなった気がします。 明治の方々がこれだけ苦闘して試行錯誤して、右も左もわからないことに飛び込んで奮闘していた事実、日本の現在の社会基盤を作ることにどれだけ重要だったか思いを馳せると、すごく身近に感じました。 「ばけばけ」が明治を身近に引き寄せています。明治政府が目指していた「富国強兵」「近代化」「文明開化」などが、現在の日本国の基盤となっていて、教育や人材などのベースを確立したところ、その評価が難しいところもあるとは思いますが、人々が一喜一憂しながらも前に進んでいったことは大切に思わないといけないとあらためて思いました。 そうしたことを考えていくと、この元号でくくって周年を考えること、元号の期間を一つの束にして考えることに私自身はどちらかというと西暦のみしか意識せずに生活していました。しかし西暦にない貴重なアプローチとして、こうした元号との連関性で歴史事象を見ていくことに新たな発見や価値がもたらされるのではと思います。確かに日常はすべて西暦で位置づけ、西暦を前提に過去を見て長い歴史を見ていくわけですし、江戸時代、室町時代なども元号で見ていき捉えることは基本的には難しく、すべて西暦で日本の歴史を把握しています。 明治以降のみ元号も起点に考えることができるという枠組みは相応に意味があり、別の視点で様々なことを考えてみる意味合いも感じられます。 (2025年11月2日 記(明日まで3連休)イノベーション・インテリジェンス研究所 幸田博人) |
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