自然との共生をドライブする―若手起業家の挑戦

■会社説明

Nature株式会社は、「自然との共生をドライブする」をミッションに、IoTプロダクトを活用し、再生可能エネルギーへのシフトの実現を目指しています。2017年にスマートリモコン「Nature Remo」を発売、日本のスマートホーム市場を牽引しています。2019年に「Nature Remo E」でエネルギーマネジメント事業に参入し、2022年より電力会社向けのデマンドレスポンスサービスの提供を開始しました。今後は、太陽光パネル・蓄電池・EV等の分散型エネルギーリソース(DER)を最適制御する独自のエネルギーマネジメントプラットフォーム「Nature DER Platform」を構築し、次世代の電力インフラのアップデートに貢献することでエネルギーの新しい未来を創造してまいります。

(Nature株式会社:https://nature.global/

■塩出晴海:
1983年生まれ。13才の頃にインベーダーゲームを自作。2008年にスウェーデン王立工科大学でComputer Scienceの修士課程を修了、その後3ヶ月間洋上で生活。三井物産に入社し、途上国での電力事業投資・開発等を経験。2016年ハーバード・ビジネス・スクールでMBA課程を修了。ハーバード大在学中にNatureを創業。

2024年12月25日のインタビュー記事です

1.父に触発され起業家の道へ

幸田:自己紹介をお願いします。

塩出:塩出晴海です。大学・大学院で情報学を勉強して三井物産に6年勤めた後、ハーバードビジネススクールに行き、入学して3か月後の2014年12月に、31歳でNatureを立ち上げました。
起業のきっかけは、父親が起業家だというのが一番大きいですね。父は僕が幼稚園の時にエンジニアとして独立したのですが、まさにスタートアップという感じでたったの3人だけど自社ブランドで3Dレーシングゲームを作り上げて、売り出したりするのを見て、楽しそうだなと感じて、自分も将来は会社を興したいとずーっと思っていました。

2.ヨットでの航海を通じて描かれたビジョン

幸田:当初から電力の需給変動に係るサービスを組み込んで展開することをビジネスにしようと思ったのはどうしてですか。

塩出:そもそも会社の名前はNatureでミッションは、「自然との共生をドライブする」なのですが、これは、大学院の卒業直後にヨットで父親と広島から沖縄まで3ヶ月かけて巡ったときの原体験が元になっています。周りが海しか見えなくなる状況があり、そこで人間が本来自然の中にありたい生き物ということを強く感じて、将来は起業家として自然との共生に寄与したいと思い、幼少期から勉強していた情報システムを活用できる戦い方を考えました。当時電力需要を調整する仕組みをIoTデバイスで作る世界は、僕がキャリアを通じてやってきたことと、これから社会に必要なことが合致するポイントだと思って、そこに向かっていったという感じです。

幸田:海外で起業した後、その後日本をベースにビジネスを展開されているのですか。

塩出:2015年の夏から本格的に動き始めたのですが、当時はソフトウェア開発に専念していたCo-founder/CTOの大塚さんと僕の2人体制でした。当初はいろんな国にデバイスを送っていたのですが、国ごとの問題への対応に一人でやることにも限界があると思い、2017年後半からいちばん反響の強かった日本で本格的にビジネス展開することになりました。

3.様々な”課題”と”学び”。会社とともに自分自身も成長していく

幸田:日本をベースに展開し始めて、どういうチャレンジがあったのですか。

塩出:一番鮮明に覚えていて大きなダメージがあったのは、電力小売り事業への参入と撤退です。電力小売りは我々のビジネスを大きく成長させると思い、ダイナミックプライシングの電気料金とそれに応じて家電を自動制御するという世界でも先駆けのサービスを2021年3月にローンチしました。今振り返っても、ずっとやりたかったことを世界でも誰もまだやったことがないことを商用化の形で実現できたのは喜びもひとしおでしたね。
だけどその数ヶ月前に電力価格が高騰しその状態が続いたことから、やむを得ず撤退しました。以降はエネルギー政策などの、自分にはコントロールできないことと、自分ができることを明確に分けて、コントロールできないことはその前提で事業を組み立てていく必要性を強く感じました。

幸田:スタートアップが成長するときの課題として、資金と人材とビジネスモデルの3つのカテゴリーがよく語られるところで、それについて考えると、何がボトルネックと感じられましたか。

塩出:僕らの事業でボトルネックであり続けているのは、エネルギー産業に係る公平な制度設計が十分成立していないころ。これは僕らのような新規参入にとってしんどいですね。電力小売事業で、小売事業を自由化するならば、基本的に電力調達を新電力もフェアにできる環境との組み合わせでないとおかしいと思うのです。

幸田:今は与えられた枠組みの中でやれることをやりなさい、という世界ですよね。

塩出:はい。ボトルネックに感じたものと、そこから僕らが学んだことでは、エネルギー業界も複雑でいろんな利害関係者がいるので、その事業を過去と継続で捉えると、どうしても既存の事業者や既得権益を持ってる人のしがらみに影響されてしまいます。一方で同じエネルギー業界だとしても、例えばビハインド・ザ・メーター (Behind-the-meter)のように既存のプレイヤーたちが必ずしも得意としない領域であれば、僕らみたいな新興企業が戦える余地はあるので、いかに新しく生まれる機会にチャレンジしていくかということが大事なのかは、その失敗を経て非常に強く感じました。

幸田:ビジネスを展開する上でそのような制約があると、マーケットの広がりや成長性の観点で、資金面からのサポート・提供は多少制約があるかと思うのですがいかがでしょうか。

塩出:おっしゃる通りだと思います。僕らの領域で、例えばメルカリみたいな成功体験はなかなか得られないと思いますが、そこは全く違う勝ちパターンは存在すると強く感じています。また、特に時間がかかって、将来大きな可能性がある分野では、ベンチャーキャピタルだけでなくて、事業会社ともうまく組みながらやっていくのが非常に重要だと感じました。エネルギー業界の会社からは、昨年のラウンドでも出資していただいており、関心を持ってもらっています。

幸田:会社を運営するにあたって人材面での状況や課題はどう認識されていますか。

塩出:人材面での課題として、この10 年間で強く学んだことは、創業者であり代表である人間がいかに会社と共に成長していけるかとういうことです。人材豊富な米国とは異なり、日本ではスタートアップの経営人材はなかなかいないので、外部からCEOを連れて来ることが容易ではありません。日本のスタートアップで成長している会社は、創業者がフェーズ毎に合わせて進化できている場合が多いと思っています。10 人しかいなかったら先陣切って走ればいいかもしれないけど、それが30人 50人へと増えると、組織との関わり方を変えていかないと全体として最も効率的な動き方はできないと思うので、そこが一番大変なポイントかと思います。

幸田:いろいろと「学び」ながら会社とともにご自身も成長されてということですね。

塩出:自分がどこまで成長できているかは分かりません(笑)。ただ僕も精神的にタフな人たちが精神論でやってきた社会に生きてきたので、みんな頑張って当たり前だと思ってやってきました。
ところが、会社という組織ではその論理が通じる人ばかりではないし、特に僕の会社はいろんな人を巻き込まないといけなくて、そうすると、僕自身がいろんな人をちゃんと理解して、その人たちが同じ目標に向かって進んでくれる原動力になれるかというのがポイントだと感じることが幾度もありました。
その中で、自分をコントロールすることの必然性や、日々自分がそのために努力できることについてかなり真剣に考えるようになりました。

4.DERが求められる時代に、Nature製品で社会に貢献したい

幸田:これからの目標や、事業の今後の展開をお話しいただけますか。

塩出:僕らが今目指してるのは、ビハインド・ザ・メーターの世界で蓄電池、電気自動車(EV)、給湯器など分散型エネルギーリソース(Distributed Energy Resources / DER)を有効に活用し、まずは自家消費率を最大化するようにしていくことです。
この先、DERが電力需給調整の仕組みとして大きな役割を果たすところまで必ず時代はついてくると信じています。その中でいかにNatureの製品が大きなプレゼンスを持って貢献できるかが、この先の場面で大きなテーマだと思っています。より早くユーザーにとって利便性の高いプロダクトを展開していくかということを最短距離でやっていきたいと思っています。
ビジネスモデル面では、今機器を入れてもらうことが最初のステップになっていますが、そこにとどまらず、きちんとサービス化してより収益性の高い企業として成長していけるように頑張っていきます。
またグローバル展開については、会社のドメインをnature.globalにしているぐらいなので、日本だけでは終わりたくはありません。

幸田:お父さんの影響は大きかったと思います。一般的な起業家で尊敬される方はいますか。

塩出:イーロン・マスクですね。あれだけの成果を出してる人間は他にいないので。

幸田:最後に日本の社会に今後期待したいことについてです。日本社会特有の難しさはありますが、一言お願いします。

塩出:国・社会全体の意思決定の若返りですね。自分ごと化して生きている人たちが先を決めていくのは非常に重要なことだと思います。日本の人口ピラミッドを見てもかなり上の方にシフトしている中で意思決定がいびつになっていると感じるし、それが成長阻害につながっていくことも非常に危惧してます。
そんな中で、いかに日本の将来のために最適な意思決定ができる仕組みが作れるかというのは高齢化社会先進国としての課題なのかなと思います。

幸田:最後のところは非常に大事だと思います。私自身もサポーターに徹していきます。本当にお忙しいところありがとうございました。大変面白く伺わせていただきました。

塩出:どうもありがとうございました。

(了)