世界に100億の志を ―若手起業家の挑戦(ライフシフトラボ 代表取締役社長 都築辰也氏)

■会社説明

「世界に100億の志を」という志を掲げるHRスタートアップ。45歳からの実践型キャリアスクール「ライフシフトラボ」を運営し、ミドルシニアの幅広い就業機会創出に取り組む(WEBサイト:https://corp.lifeshiftlab.jp/)。



都築辰也

1993年生まれ。東京大学工学部システム創成学科(コンピュータサイエンス)卒。学生時代は、世界最大級の学生NPOアイセックで活動した後休学し、バックパッカーとして世界を一周。新卒でソニーに入社し、スマートフォン「Xperia」商品企画担当として2019年フラグシップモデル「Xperia 1」や海外専売モデルをプロデュース。2019年「世界に100億の志を」という志を掲げ、HRスタートアップである株式会社ブルーブレイズ(現ライフシフトラボ)を創業。2022年、45歳からの実践型キャリアスクール「ライフシフトラボ」を開始し、人生100年時代における中高年のキャリア形成に取り組む。40代・50代の複業・転職・リスキリングなどのテーマで寄稿歴・取材歴多数。フルスタックエンジニア。国家資格キャリアコンサルタント。

2024年10月7日のインタビュー記事です

1.AI エンジニアからミドル・シニア向けリスキリングの世界へ

幸田:簡単に自己紹介をお願いいたします。

都築:45 歳からの実践型キャリアスクールライフシフトラボという事業を行っている(株)ライフシフトラボの代表取締役の都築です。学生時代は AI エンジニアとしてプログラムを書いていました。その後、新卒でソニーに入ってスマホの商品企画を2 年半ほどした後、2019 年に起業して今に至っています。


幸田:大学時代のAI エンジニアと今の事業ではギャップを感じますが、立ち上げた企業の事業概要をお話いただけますか。

都築:中高年 40 代 50 代を対象にしたキャリアの個別指導をやっています。人生後半の自立的なキャリアの形成のための副業デビューや転職の支援をしていて、転職したい方からお金をいただいて、3、4 ヶ月間の短期集中で転職の成功や副業デビューを伴走支援するというサービスです。
人材領域で事業を立ち上げた背景としては、私のいた学科には天才的な AI エンジニアがたくさんいて、自身がAI の世界で戦って行くかを考えた時に、この天才にかなわないと思ったという面がありました。また、人生を通じてやるのであれば、天才たちと競うよりも、自分が社会に対して持つ問題意識を解決したい。そういう人生にしたいという気持ちがずっとありました。
という時に、中高年のキャリア領域は問題意識を持っている人はたくさんいても本質的な課題解決の手段が残されていると気づきました。年齢が上がると希望する転職ができにくくなるという構造上の問題に課題意識を持ちこれを変えることは非常にやりがいがある、かつ社会的意義があると思って取り組み始めました。



幸田:天才的なエンジニアにはどういう要素があるのですか。

2.ソニーを2年半で退社、コロナ下での起業

幸田:起業のタイミングとしては翌年にはコロナで大変な中で非常に難しかった気もしますけれども、今から振り返るとどうですか。

都築:ちょうどコロナが始まったぐらいでの起業で、コロナだから苦労したという経験は特にありません。むしろ、当社は完全オンラインサービスなので、コロナ禍でリモートワークが一気に進んでコロナが追い風になった面もありました。



幸田:ソニーを2 年半で退職して起業されていますが、元々起業志向が強かったのですか。

都築:むしろ私はソニーが大好きで、就活の時もソニーしか受けず、ソニーの社長になるという気概で入社しましたし、ずっとこの会社でやっていこうと考えていました。ソニーに入ると優秀な人たくさんいてですね。ならば、この大きな組織の中で頑張るより自分のオリジナルな生き方をするために起業した方がいいと思ったのが変化点でした。
また、やめるときは、誰からも特に反対などはありませんでした。周りは家族も含めて応援をしてくれました。昔とは時代と環境の変化もあったと思います。
大学のAIの学科ではクラスの半分ちょっとが起業を選択するという起業が当たり前の環境でした。自分の家族も商売の家系でしたから、やりたいならいいじゃないっていう感じのスタンスでした。



幸田:起業時、資金や仲間やプランを考えたりとかはどう取り組まれましたか。

都築:資金は会社員のときの貯蓄や学生時代のバイト、あと趣味の車を売ったりもしました。仲間や情報に関しては大学時代ですね。起業するコミュニティやサークルがたくさんあったので、そこを通じてベンチャーキャピタルも含めて情報収集やご縁をもらいました。
大学で起業に関わる情報を得る機会が多くて新しい取り組みにスムーズに始められると感じています。また、自分の2、3 個上の先輩が実際に起業している環境にいたことは大きかったと思います。



幸田:今の事業は、創業当初からどのように変化していったのですか。

都築:最初に始めた事業も人材キャリアに関してですが、転職時にOB 訪問ができるマッチングサービスだったんですね。転職時のミスマッチが多すぎてすぐに辞めるのを防ぐため、事前に十分に会社のことを知っておけたら減らせるかなと思って始めたのですが、1 年ほどやってお客様は増えたけど儲からないという壁にぶつかって、事業転換をして始めたのがライフシフトラボになります。
現在ないサービスには、ないなりの理由があるということを1 個目のサービスでよく学びました。1 個目では中高年の方々の登録者が多く、キャリアに課題を感じているということを知るに至り、新たなニーズ発見のきっかけになりました。

3.起業の楽しさと苦しさ

幸田:起業の楽しさと苦しさについてはいかがですか。

都築:私が能天気だからだと思うのですが、苦しいと思ったことは一度もなくて楽しいことばかりですね。全部自分で決められるかつ、その結果が全部自分で責任を取れるというのが非常にフェアだと思っています。今はメンバー数が 100 人以上になりましたが、結局は最初の1 個目のドミノは社長が押したものですから、全部自分に降りかかってくるということにやりがいを感じています。



幸田:これまでの事業展開でボトルネックだったと思うものは何かありますか。

都築:今振り返ると、私が左右どっちに行くかのタイミングに躊躇しないという決断力、どれだけのリスクを取れるか、そういったところだったと思います。自分がブレーキを踏む気持ちがボトルネックになったことは過去に何回かありました。最後の自分の決め、決断リスクを取る。これが一番大事かもしれない。それがあれば、資金と人はついてくるというのが今までの学びです。


幸田:事業モデルの将来性はどうですか。そのためには何が必要ですか。

都築:中高年の人材マーケットを作り替えるナンバーワンのプレイヤーになろうと思っています。就業者のうち半分ぐらいが中高年が占めているのに関わらず転職市場の主役は若手になっています。このズレが人手不足や氷河期世代の年収の格差を生んでいるように思います。
これらの課題を解決してマーケットを作り替える存在になることで、まずは日本社会の雇用問題と人手不足の問題を解決するのが長期のビジョンです。そのために転職の塾という形で多くの受講生の方をお手伝いしていくのがファーストステップ、次に人手不足の企業と結びつけることで、仕事を探し困っている中高年層をマッチングして、規模を大きくしていきます。


幸田:最後に日本の社会が今後どうなるといいか、現在のミドル・シニアの働き方についても含めてお話いただければと思います。

都築:私が実現したいのは、「人生のミドルスパートを文化にする」ことです。ラストスパートならぬミドルスタート、80歳まで働くと50 歳は折り返し地点です。残り後半戦をなあなあで過ごすのではなく、もう 1 回ブーストをかけてミドルスパートを切る、そういった機会が与えられる世の中にしていきたい。それが中高年層の生き生き働ける世の中を作ることにもなりますし、高齢化先進国の日本でまず実現することに意味があると思っています。
現状、氷河期世代と重なる50代前半の方など、あまり生き生きとは働けていないと感じています。モチベーションも必要ですが、転職活動の中でメンタルがやられるケースもあります。当社では心理やメンタルの専門家もチームに入っていますので、キャリアと両面のサポートができるようになっています。こういったサポートの幅は今後も広げていく予定です。



幸田:都築さん、これからまだまだ山あり谷ありでしょうが、持ち前の気力と明るさで超えられるだろうと思います。ぜひ日本の新しい社会のあり方の変革に向けて頑張ってください。