Red Dot Design Award受賞〜嗅覚トレーニングデバイスの開発と世界の舞台で得た内省〜(多摩大学 グローバルスタディーズ学部准教授 今村 康子氏)

10月15日にシンガポールで行われた世界三大デザイン賞のひとつRed Dot Design Award 2025のセレモニーに受賞者として参加してきました。
システムデザイン・マネジメントを専門とする研究チームで開発を続けてきた嗅覚トレーニングシステムがコンセプトデザイン部門の最高賞Best of the Bestに選出され、人生で初めてレッドカーペットを歩き、ステージ上でトロフィーを授与いただきました。

受賞したのは、加齢に伴う嗅覚の衰えに着目した嗅覚のトレーニングデバイス”余薫(yokun)”です。香りを封入したシャボン玉を使うことで、楽しみながら嗅覚低下を予防することを目指した嗅覚トレーニング用デバイスです。詳細は、以下をご参照ください。


余薫WEBサイト:https://www.yokun-ot.com/

嗅覚低下は50代から始まり、75歳以上の46%は嗅覚低下を起こしていることが明らかになっています。さらに、嗅覚低下が判明した人の76%が無自覚であるとの研究結果も出ています。

嗅覚が落ちると、異臭に鈍感になって危険が察知できなくなります。食欲が低下し、健康を害する可能性もあります。
視力や聴力のように日常生活で機能低下が知覚されにくく、関心が向きにくい嗅覚ではありますが、安全や生活の質(QOL)、ひいては寿命に影響する無視できない感覚です。

さらに、嗅覚を司る細胞は、機能を再生できる珍しい細胞です。そこに着目し、嗅覚を継続的にトレーニングするデバイスを開発しました。

これを機に皆様の関心が嗅覚に向き、日々の中で香りを嗅ぎ分ける習慣を意識いただけましたら幸いです。

Red Dot Design Awardに話を戻します。デザインコンセプト部門は、まだ商品化されていないコンセプトや未来志向のアイデアを対象とした賞です。
その中には、Next Gen Awardという30歳以下の次世代デザイナーを発掘するための賞があります。

セレモニーでは、中国、韓国、台湾などのアジア各国の大学、大学院の若きデザイナーたちが、堂々たる姿で次々に壇上に登場しました。残念であったことは、その中に日本からの参加者がいなかったことです。

今回デザインの最前線にある熱気とエネルギーを体感し、私は強い内省を迫られました。日本国内に安住せず、世界に挑戦する若者をいかに支援していくか。今回の受賞は、日本に住むサービスデザインを専門とする研究者として、大学教員として自分自身の役割をあらためて見つめ直す貴重な機会となりました。

(2025年10月20日 記 多摩大学 グローバルスタディーズ学部准教授 今村 康子)