ハーバード大学でここ数年、毎年この時期に開かれている気候シンポジウムを今年も聴講しました。印象的だったのは、議論が「理想論」から「現実論」へと明確にシフトしていたことでした。
米国最大級のクリーンエネルギー企業ConstellationのCEOは「AIデータセンターには24時間安定した電力が不可欠。風が止まったら計算も止まるでは困る」と語り、原子力や天然ガス(CO2回収付き)の必要性を強調しました。さらに「AIセンターは都市並みの電力と冷却用の大量の水を消費する。住宅開発が水不足で止まっている地域もある」との警告は、AIブームの陰を示しました。
投資家の視点も変わりつつあります。ノルウェー政府年金基金は2兆ドルを運用しますが、その2割が気候変動でリスクにさらされていると説明。ロックフェラー財団系ファンドの運営者も「環境ミッションより、ビジネス上の重要性で語らなければ資本を巻き込めない」と語りました。議論は理想からリスクと収益へと移りつつあります。
石油大手OccidentalのCEOは「石油をやめるのではなく、石油をカーボンニュートラルにする」とし、2032年までに年間2,500万トンのCO2回収・貯留を掲げました。
CO2を吸い取り油田に埋め戻し、そのクレジットを航空会社に販売し、石油を「悪役」から「解決策」に変えようとしています。抗議する環境団体が現れても、CEOは冷静に議論を続けていました。筆頭株主バークシャー・ハサウェイ(28%保有)の後押しもあります。
英国の元エネルギー相は「61%の企業が移行計画を持つが、1.5度目標を達成できるのは30%に過ぎない」と厳しい現実を示し、マサチューセッツ州知事は1千万ドルを投じ3万4千人の技能者を育成する計画を紹介。抽象的な「グリーン雇用」ではなく具体的な技能職を強調しました。
全体を通じて、気候変動対策は「完璧な理想」ではなく「実行可能な現実」へと舵を切りつつあるようです。
データセンターの電力問題を聞きながら、MIT発スタートアップLightmatterを思い出しました。電気信号を光に変換しデータ転送を10倍以上高速化、エネルギー効率も数倍改善でき、AI計算も光で可能だといいます。
評価額は既に40億ドル超です。日本ではなぜこのような革新的な技術がスタートアップから生まれてこないのだろうかと自問しました。
(2025年9月23日 記 BWizキャピタル株式会社 代表取締役 加藤 毅)
