シンガポールにて ~プライベート・エクイティの「現在地」とインドの「再発見」~ (MCPアセット・マネジメント株式会社 マネージング・ディレクター 小林 和成氏)

9月下旬、シンガポールへ出張する機会がりました。シンガポールは年間一定した気候でもあり、猛暑の東京とより涼しく、日本人や日本をよく知るシンガポール人とは「夏はシンガポールの方が避暑地?」との会話が交わされました。

今回の出張では、プライベート・エクイティに関してアジアで最大の会議である”Super Return Asia“の開催に合わせて会議でのパネル参加、様々なサイドイベントへの出席、世界中から集まる投資家やファンド・マネージャーとのミーティングを行いました。


Super Returnのアジアは今年で20周年を迎え、規模も3,000人規模と大きくなりました。小生は最初より毎回出席していますが、コロナ後に香港からシンガポールに移ったことから中国フォーカスからより広くアジアをカバーする形になった印象です。

プライベート・エクイティ市場に関しては、数年前まで続いていた「黄金期」の終焉に伴う市場動向や投資戦略の見直しに関する議論、急拡大する富裕層・リテールマーケットへの投資商品の提供とそれに対する懸念(市場を歪め情報量に劣るこれらの投資家に将来、負のしわ寄せがいかないか?)、投資の7割程度を占めるトランプ政権下の米国に関してドルへの信認の揺らぎ、など様々な課題があり、これらに関して様々な議論・意見交換を多様なバックグラウンドの方々と行いました。

その中で、ポジティブな話題としては日本とインドの市場拡大で、会議の中でも注目を集めていました。日本に関しては構造的な要因で事業承継・大企業からのカーブアウト・非公開化の案件が増加しており、海外の投資家としては日本への投資を増やしたいと考えていますが、まだまだそれらの投資家の眼鏡にかなうファンドが少なく、また規模も小さいことに関する悩みを抱えていました。

一方、インドに関しては、地政学的には西側に近い一方、グローバル・サウスとの関係も強く、周辺国では様々な問題を抱えるものの大国としての役割をより果たす様になってきています。インドの外交政策に関しては外相を務めるS・ジャイシャンカル氏の『インド外交の新たな戦略』(白水社、2025年4月)を読まれることをお勧めします。

同氏とは昨年インドのカンファレンスでお会いする機会があり講演を拝聴しましたが非常に雄弁かつ明快なお話でした。また、経済的にも年率6%の成長率でGDPは近々世界3位となり、15億の人口の内、2億はグローバルに活躍する層、次の5億は中間層と約半分の7億人が相応の経済水準に到達、国内での資本蓄積も進み、また政府の政策でデジタル化も日本以上に進展しています。

一般的な日本人のインドの印象は、「貧困層が多い」、「衛生上問題がある」、「自己主張が強くビジネスがしづらい」といったところでしょうが、特にプライベート・エクイティを見た場合は、洗練されたファンドも増えてきており、成長性の高い興味深い投資先も多数あります。

今回はIVCA(インドPE&VC協会)のセミナーやインドのファンドの年次総会にも出席しましたが、以前に比べプレゼンも洗練され内容のクオリティも大幅に上がっていました。小生はインドでの投資を約20年前から手掛けていますが、いくつかのサイクルを経てニッチな投資対象からメインストリームに近づいた印象を改めて持ちました。

日本にいるとどうしても視野が内向きになったり、米国の情報に引きずられることになりますが、シンガポールに来ると、グローバル市場の多様な人々とのコミュニケーションを行うことも出来、またシンガポールがインドと中国のブリッジの機能を果たしていることなどを改めて認識させられるなど、興味深い出張でした。

一方、円高のせいでもありますが、シンガポールの物価高には寂しい思いもしましたが(笑)。

(2025年9月21日 記 MCPアセット・マネジメント株式会社 マネージング・ディレクター 小林 和成)