7年ぶりのシティツアー(前一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会 理事長 大橋 圭造氏)

金融マンとして永年過ごしたロンドンをこの夏7年ぶりに訪れました。

この7年間国際金融の実務から離れていてシティの動静に疎くなっていたこともあり、昔お世話になった古参のナショナルスタッフに改めてシティを案内してもらいましたが、やはり今浦島、新たな「発見」に出会うこととなりました。

一つ目の「発見」は金融機関の支店が消失していたこと。

シティの壮麗な建物に鎮座していた名門金融機関の支店がかなりの数消えていました。

残った支店を覗いてみても、壁一面にATMは並んでいますが、カウンターの類は一切なく、職員は警備員を入れても数名しか見当たらない。

住んでいた街の商店街の目抜き通りにあった支店も消えており、これはシティに限った話ではないようです。

金融取引の場におけるこうした「人と人とのリアルなコネクションの希薄化」は、ネット時代の当然の帰結と得心しました。

とはいえ、東京の我が家の近くの金融機関の支店を訪れると、いまだにカウンターが並んで多くの職員が働いています。

高齢化が急速に進む我が国では、金融機関がリテール分野の取引についてネット化を一気に進めることは難しいだろうし、また人員整理もシティと異なり容易ではありません。我が国の金融機関もネット時代に対応すべく支店の統廃合や軽量化を進めていますが、彼我の差はまだ大きいようです。

二つ目の「発見」はコンプライアンスコストが上昇したこと。

テレワークの浸透で金融機関内部においても「人と人とのリアルなコネクションの希薄化」が進んだ結果、モニタリングのコストが増えているそう。
 
無限責任を負ったパートナーが「顔の見える関係」を維持することで市場のintegrityを保とうとした時代など遥か昔の話。就社意識の低い今のシティでテレワークにより「人と人とのリアルなコネクションの希薄化」が進むと、コンプライアンスに悪影響を及ぼしかねないという見立てがあるようです。

我が国でも徐々にではありますが、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行が進んでおり、テレワークも金融機関において一定の市民権を得てきているようです。

しかしながら、我が国では就社意識の高さがコンプライアンスに悪影響を及ぼした事例が少なからずあり、シティの見立てがそのまま当てはまるようになるか、興味が持たれるところであります。

金融に限らず、社会のあらゆる局面で今後「人と人とのリアルなコネクションの希薄化」が進むのは避けられません。生成系AIの絶え間ない進化はその動きを加速しようが、こうした変化は社会にどのような影響をもたらすことになるのでしょうか。

センチメンタルジャーニーのつもりが色々考えさせられることとなった7年ぶりのシティツアーでありました。

 
(執筆者:前一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会理事長 大橋圭造氏)

(執筆者:2024年8月15日 記 京都大学経営管理大学院 客員教授 上田亮子氏)