Tiny house(WMパートナーズ株式会社 代表取締役会長 松本 守祥氏)

八ヶ岳南麓に小さな小屋を建てたのは5年前です。
ルールは、生産的、目的的、活動的、生活的、@@的「でない」ことです。

昔から山も雪も沢も好きですが、特に登攀やキャンプがとりわけ好きなわけでもありません。小屋の灯りを消せば今でも漆黒の闇、気にするような家も周囲にはほとんどないので無音、TVもなければ電子レンジもなく、楽しくなんかないのだからそりゃ家族もこんな不便なら敬遠もするわけです。

ここでは自分を忘れるか、さもなくば自身と向き合うことぐらいしかないのですから。

家を建てる前、土地取得はぼくが前職で米国勤務する前の2006年頃でした。最初は吉村順三に模した設計図を検討していたけれど建てるまでの時間の経過、経済と自身の心境の変化で、最後に行きついたのはTiny house でした。

結局自分が学生時代に住み込みでバイトしてた山小屋に近いものになったが違うのは人が寄り付かないことです。別荘でもセカンドハウスでもない、この場所に求めるものが変わったのだと思います。
 
串田孫一がかつて「アルプ」という雑誌を編集していました。あの頃山行を愛する人たちが見ていた景色、そして語っていた詩、描いていた絵というのはどこへ行ったのだろうと思います。
トレッキング、キャンプが大衆化して、便利になって、アウトドアビジネス=make moneyは成功しました。IT、コミュニケーションの進化で人間の活動レベルが上がって、労働生産性は目覚ましく向上しました。

豊か?になったのだから何の文句がありましょう。お金は低きに流れて自然最適に帰着する、金融に民俗学は無用なのです。

ぼくの業界の2025年のニュース、AI関連でAnthropic の企業価値は約半年で3倍、同じくCursor は一年もたたないうちに10倍の約$30 billion になりました。やれやれ「また始まった」。これから日本も米国よろしく所得よりも資産収益の獲得を目指す、資産運用立国を目指すのだから乗り遅れてはいけません。「時間貯蓄銀行」の役人に怒られないように。
 
小屋の夕暮れ時によく庭に顔を出すのが鹿の親子で、今時の鹿は害獣というカテゴリーに分類されているのです。ぼくは鹿を捕獲も餌付けもしないで見ているだけ、いや見られているだけ。そもそも鹿のほうが昔らからここにいたわけで、ぼくは新参者。

鹿が畑を荒らすというより人間が鹿の生活圏に畑を作ったのです。人間が耕作を始めて土地を改良?すれば自ずと自然は壊れ始めます。環境問題の核心は種としての人間の増殖と生産性向上による経済価値創出という欲望の再生産を正当化した社会システムでしょう。

AIがそれを決定的に加速してしまうかもしれません。そのうち熊が現れるかもしれないし、あの「羊」がやってくるかもしれません。小屋の周囲の開発が進まないことを願うのはあまりに身勝手で贅沢なことのようにも思えます。合掌。

(2025年12月7日 記 WMパートナーズ株式会社 代表取締役会長 松本 守祥)