デンマーク八景 -ニューロダイバーシティとソウルフード-(京都大学経営管理大学院 特定准教授 脇屋 勝氏)

7月下旬、デンマークへ出張する機会がありました。
暑い日本から涼しい北欧へという期待は裏切られ、地球温暖化の影響か、湿気は高くはないものの、気温と日差しは日本と変わらないほどでした。
エアコンのないホテルの部屋には扇風機が、ぽつんとひとつ、申し訳なさそうに置かれていました。

今回の出張の目的は、デンマーク・コペンハーゲンで開催された組織マネジメント系の学会である「the Academy of Management (AOM)」 のAnnual Meetingに参加することでした。

やはり滞在する場所や目的が変われば、怠惰な自分であっても新しい発見はあるもので、見てきたこと聞いてきたことを少し紹介できればと思います。2つのトピックスを紹介します。

(1)ニューロダイバーシティ
AOMで参加したセッションで印象深かったものが、ニューロダイバーシティについてのものです。
ダイバーシティといえば、人種、性別、年齢、宗教の多様性のことを指し、日本でも企業や組織でそれらを尊重し活かす取り組みを進めています。

ニューロダイバーシティは、このダイバーシティに、Neuro(脳・神経)という言葉を合わせたものです。脳や神経、それに由来する特性(自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、学習障害などの発達障害)は、能力の欠如と見なすのではなく多様性と捉えて、それらの違いを社会の中で活かしていこうという概念です。

ニューロダイバーシティは、一般的なダイバーシティと比較すると認知度は低くAOMでの取り扱いもまだ大きくはありません。しかし、文部科学省が実施した2022年の調査によると、日本の小学校・中学校において、発達障害と推定される児童の割合は 8.8%と前回調査(2012年)の6.5%から上昇しています。
今後の社会や企業のサスティナビリティを考えると、その特性を理解し特徴を発揮できるような周囲の理解と環境の整備が一層重要になってきます。

このセッションはプレゼンテーション形式ではなく、小規模な部屋でラウンドデーブルでのディスカッションでした。そのため、ダイバーシティに特に関心と理解がある方が参加していると思われました。

ところが、各々が考えるダイバーシティの概念により包摂する範囲に差があるではないか。つまり、自己のグループ外と見なすものについては、はじめからダイバーシティを考える上で無意識に対象から除外し、もしかすると狭い範囲で考えられているのではないかと感じることもありました。
この点は意識して気を付けないと、ダイバーシティの本質から逆に遠のいてしまうのではないかと思いました。

(2)ソウルフード
デンマークでは、オープンサンドイッチの「スモーブロー」を食べねばと思っていたのですが、一緒に参加した先生から「現地の人によると今は、チーズバーガーがソウルフードらしいよ」という意外な話を聞きました。
ここはアメリカではないと思いつつ、輸出するほど酪農が盛んなので、あり得る話と納得はしました。

確かに、バーガーのお店はよく見かけました。それではと「スモーブロー」から「チーズバーガー」に予定を変更し、道すがら地元の人で賑わうフードコートで、看板に「世界でもっとも有名なチーズバーガー」と書かれていた店でチーズバーガーを買うことにしました。

驚いたのは、味ではなく、その価格でした。デンマーク・クローナ表示の値段を見て2000円を超えるなと簡単な計算をしつつ、「日本円に換算すると買えなくなる」とも聞いていたので、忠告にしたがい厳密には計算せずに支払いを済ませました(正確には2380円だった)。

現地のセブンイレブンで売られていた500mlの水の価格も500円を超えており、この物価の差は品質の違いでは説明できません。あまり海外へ行く機会のない私は、報道レベルで知識としては理解はしていた内容を実際に肌で感じ、ションボリして帰ることになりました。

次回、海外に行く時には、いつも京都の四条大橋で見かける外国人旅行者のように、財布を気にしないようになっていればと期待するばかりです。

(2025年8月31日 記 京都大学経営管理大学院 特定准教授 脇屋 勝)