#14 トランプ大統領登場1か月と情報の洪水への向き合い方

トランプ大統領の再登場から1か月が経過しています。

特徴的なことは、大統領令を連発し、大きく政策面での転換に向けた動きを一気呵成に進めていることです。内政面では、不要な支出削減(DOGE(政府効率化省)による取り組み)、DE&IやESGなどに対する否定的な対応、国際関係では、一律関税の表明、パリ協定からの離脱やWHO(世界保健機関)からの脱退表明、中東ガザの所有表明、ロシア-ウクライナ停戦協議など、まだ1か月少しの間に、様々なことを激しく動かしています。

世の中の風景が大きく変化し、トランプ大統領の動きに、世界中が振り回されています。

筆者が今回のトランプ劇場の第2弾を見て強く感じるのは、米国支持者向けに、すべての事象を水面上でアピールして、次から次にアドバルーンをあげていくことで進めていくといった、フラッド・ザ・ゾーン戦略(情報の洪水で溺れさせる戦略)の巧みさです。

だからこそ、すべてがディール交渉的な要素を含んでいることが見てとれ、トランプ大統領の真意を巡っての様々な有識者の解説が頻繫になされています。ここまで政策決定者トップがオープンに語り続けていることは、異様な感じもします。

何でもテーブルに乗せ、極論をぶつけて相手にプレッシャーをかけるなど、ディール交渉術としての発言のなかにフェイクや一方的な解釈に基づく内容などが散見されることも全く問題ないかの如くです。

こうした情報の洪水状況に溺れそうです。煽動的なところはありますが、トップ権力者が何を考えているか、オープンな面もなくはないので、そうしたことを注意深くみていくしかありません。

こういう時代だからこそ、情報の洪水に溺れないためにどうすべきかについて、考えて取り組むことが重要だと思います。参考になる書籍があります。山田圭一著『フェイクニュースを哲学する』(岩波新書:2024年9月)です。

本書籍、少し難解なところもありますが、色々と考えさせてくれます。章立てが「問い」になっていて、例えば、「フェイクニュースとは何か」、「他人の言っていることを信じてもよいのか」、「どの専門家を信じればよいのか」、「マスメディアはネットよりも信じられるのか」などです。

終章の「真偽への関心は失われていくのか」の中で、「ここでおすすめしたいのは、急ぎすぎないことである。・・・われわれは話し合いをしていても、つい結論を急ぎたくなり、・・・」「真偽の判断をいったん留保してみることで、腰を落ち着けてその情報と向き合い、妥当性や信頼性を吟味する余地が生まれてくることになる。」(183-184頁)とあります。

以前、本メルマガ3号(2024年8月)で、佐藤卓己氏の岩波新書「あいまいさに耐える-ネガティブ・リテラシーのすすめ」(2024年8月)を引用し、「私たちに必要なのはAIが不得意とするあいまいな情報に対するリテラシーである。その場合、むしろ消極的(ネガティブ)な視点でメディアリテラシーを考えるべきではないのか。それは情報をやり過ごし、不用意に発信しない力である。」(193P)と、情報過剰時代の生き方が示唆されていること引用しましたが、それと通じるところがあります。

個々人にとって、様々な情報が洪水状態で押し寄せる中でどう向き合っていくのか、あわただしい日々の中で、簡単ではない面はあるものの、時代の変化を意識しつつ急ぎすぎないことを大事にしていくこと、あらためて感じたところです。

(2025年2月25日 記(ロシアによるウクライナ侵攻から3年経過した翌日に)
イノベーション・インテリジェンス研究所 幸田博人)