正しい事業承継M&Aが行われるマーケットを目指して(株式会社ソーシャルキャピタルマネジメント 代表取締役社長 小林博之氏)

日本の中小企業において経営者の高齢化と後継者不足が深刻化しており、事業承継が重要かつ喫緊の課題となっています。親族内承継だけに依存できない中、第三者承継の手段としてM&Aが注目される一方で、不適切な買い手の存在や本来ゲートキーパーとなるべきM&A仲介業者に関わるトラブルが多発している現状です。

小職は、事業承継学会における事業承継M&Aリサーチプロジェクトを有志とともに立ち上げ、仲介業者の営業姿勢や業務遂行の信頼性を検証し、2024年12月の事業承継学会において発表を行いました。ここではその概要を皆さんに共有させていただきたいと思います。

本プロジェクトチームでは、中小企業経営者、支援者を対象にしたアンケート調査とヒアリングを行った結果、実に75%以上の対象者が仲介業者に対してネガティブな印象を持っていることが判明しました。特に、あきらかに手数料目的と思われる営業、企業や経営者事情への事前理解の不足、社長(オーナー)個人を標的とした強引なアプローチ、守秘義務に関する不適切な対応等が信頼性を損なう要因として挙げられました。また、40%の対象者が仲介業務の遂行において「信頼できない」と回答し、情報提供の不足や条件交渉の不透明さ、案件成約後の契約遂行支援・フォローアップの不足が問題視される結果となりました。

これらが生じる原因としては、M&A仲介業者の倫理観の欠如やガバナンス運営意識の不足等が挙げられ、その更なる背景として、M&A仲介業務に関して適切に管理監督する業法や監督官庁が存在していないことにあると考察しました。
一方、中小企業経営者においても、経営や財務についての十分な知識が不足しており、仲介会社の説明に対して自らの意見を持てていないこと、適切な中立的な相談ができる窓口がないことも問題として指摘させていただきました。

今後は、仲介業務の適正性を担保するための業法の制定と監督体制の整備は不可欠であると考えます。また仲介業者自身においては倫理教育の徹底、業務内容と手数料のバランスが求められます。一方、中小企業経営者にはリテラシー向上に向けた機会の創出を進めることが重要と考えています。

事業承継においてM&Aは極めて重要な手段であることはこれからも変わりません。業界の改革と経営者支援を通じて事業承継の成功に寄与することを期待したいと思います。

(2025年2月8日 記 株式会社ソーシャルキャピタルマネジメント 代表取締役社長 小林博之)